2012年10月4日木曜日

おいしいコーヒーのいれ方 part-2 珈琲豆を調達する

 連載企画「おいしいコーヒーのいれ方」2回目です。前回は珈琲を抽出するための器具として「コーノ式ペーパードリップ」と「コーヒーポット」をオススメした。
では、さっそく珈琲を入れてみたいが、肝心の珈琲豆はどうするのか。
それが今回のテーマ。

当たり前の話だが、美味しい珈琲は美味しい珈琲豆からしかできない。
では、「美味しい」とはどういう味のことを言うのか。

特に珈琲は人によって好みの差が激しい嗜好品であるとよく言われる。
言わんとしていることはとてもよくわかる。

私も自分でタバコを吸っていた頃、タバコを切らして喫煙室で隣にいた同僚にキャビン・マイルドをもらって吸った時、どうしてこんな味のタバコがあんなに売れているのか、どうしても理解できなかったものだ。

珈琲の勉強を始めて三人目のお師匠さんについた時、とにかくたくさんの国の珈琲を10種類、1Kgづつ、というから計800杯くらいの珈琲を一ヶ月で飲まされた。
それが弟子入りの条件だったからだ。

師匠の焼いた豆はどの珈琲もそれぞれにとても美味しいと感じたが、マンデリンというインドネシアの珈琲だけがどうしても口に合わなくて往生した。

しかし、マンデリンを愛する珈琲好きはとても多い。
自分が「美味しい」と感じなくても誰かにとって「美味しい」マンデリンは存在するということだ。じゃ、いったいどうすればいいんだ?

この解は、珈琲が出来上がる工程の中に潜んでいる。したがって今日のお話もややこしく長い話になりそうだが、ご辛抱いただきたい。



珈琲はアカネ科に属する学名「コーヒーノキ」(そのまんまですね)という樹木の種子を煎って湯に(または水に)抽出して飲用するものだ。
この種子自体は非水溶性で、生のまま水に漬けておいても成分は出てこない。

それに硬くて食用もできないが擦り潰して舐めると、とても酸っぱい。
青臭くて嫌な匂いもする。

この珈琲の生豆(なままめ、この場合は絶対に「きまめ」と読んではいけません。生という字は「なま」と読んだ時は「火を通していない」の意味で、「き」と読んだときは「純粋な」という意味になるのです。それぞれ酒や蕎麦の例に当てはめて吟味してみてください)を「焙煎」すると、豆はその内部に平均7μともいわれる微細な孔がたくさん空いて(その分豆が膨らむ)、その孔の中に約800種類にもおよぶ化学物質が生成される。その孔の中に湯を(または水を)通し、珈琲という飲料を抽出するのだ。


この多孔質化は、珈琲豆の中心部に顕著なので、豆全体をむらなく加熱したい。
こういう時人は昔から「温めた空気を使ってゆっくり加熱する」方法を選んできた。

で、これに特化した機構を持つ珈琲焙煎機を使って焙煎するわけだが、近年よく見かける「その場で生豆を焙煎」して販売するタイプのお店には注意が必要だと思う。

多くの場合このタイプのお店は700度近い高熱で90秒で豆を焼き上げる「ジェット・ロースター」という機械を使っているが、調理を経験した人はわかるだろうが急速に加熱すると外周部と中心部の焼け具合には大きな差が出る。

これを積極的に使う中華料理が大火力のバーナーを使う所以である。

実際に今まで飲んでみたジェット・ロースター製の豆はどれも芯残りで軽い酸味が残っていた。
したがってこのビジネスモデルは、味の部分は少々犠牲にしても「鮮度」の方を重視するというもの、ということになる。そしてこのロジックには一理、しかも重大な理があるのだ。

珈琲豆は焙煎してから一ヶ月や二ヶ月で飲めなくなってしまうものではないが、焙煎によって作り出される800種類の化学物質は、一週間で約60%も失われてしまうのだ。

スーパーに並んでいる「自家焙煎店の豆」は流通の仕組みの関係で一ヶ月ほどたったものがほとんどだと聞いている。
またはお歳暮でもらった豆を半年ほど冷凍庫で保管して飲み続ける家庭もまったく珍しいものではない。
家庭で飲まれるレギュラーコーヒーの多くがそういった味の中核を失ったコーヒーであることを考えると、鮮度の高いコーヒーはそれだけで貴重であるとも言える。


それでもやはり最も重要なのは「味」だと思う。
だから中心まできちんと焼けて、しかも焼きすぎていない(焼き過ぎると、化学成分が焼き切れて「苦いだけ」になってしまう)豆を、鮮度が高いまま提供する「誠意ある」お店を見つけることが、美味しい珈琲を入手する最良の手段だ。

逆に言うとジェット・ロースターの普及を許しているのは、古い豆を平気で販売する自家焙煎店が招いた自業自得の事態とも言える。


全国のロースターの80%ほどが採用している「フジ・ローヤル」という大阪の焙煎機は、豆を中心まで熱するのに絶対に欠かせない、釜内の空気量を調整するダンパーを備えた世界でも珍しい機械で、世界のスタンダードであるドイツ、プロバット社のものよりも焙煎という工程の特性をよく捉えていて優れていると思う。
その分、使いこなしが難しいが。


とりあえず、この機械を目印にして、なるべく焙煎の新しい豆を入手する、という基本方針で近所の焙煎店を当たってみて欲しい。
日本の小売の流通を複雑を極めている。珈琲豆は生鮮食料品なのに、スーパーなどでは、そのように取り扱われてはいないという事情を鑑みると、今のところ自家焙煎店で豆を焼いた人から買うというのが最良の手段であると思う。


さて、また今日もお喋りが過ぎたようだ。でも豆選びもまだ端緒である、お店選びが大事だ、という考えてみれば当たり前のようなスタート地点にたどり着いたばかりだ。
次回は、では自家焙煎店に並ぶたくさんの豆ってどこが違うのよ、といったあたりに斬りこんでみたい。

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