2012年10月4日木曜日

おいしいコーヒーのいれ方 part-3 コーヒーの名前

さて前回は、どんなお店で珈琲豆を調達すべきかについて書いた。

で、さっそく自家焙煎のお店に行ってみると「キリマンジャロ」とか「ブラジル」とか「ブルーマウンテン」とか「ハワイコナ」とか・・いろんな「名前」の珈琲豆が並んでいる。

味はどんなかいなと説明を読むと、ふむ「爽やかな酸味」か・・酸っぱいのは嫌だな。
どれ「コクのある苦味」か・・何かいろいろ書いてあるようだが、よくわからない。

仕方がないのでFacebookでトモダチがオススメしていた豆を買ってみるか、てな感じになってしまいがちではないだろうか。
今回は、珈琲豆の名前を見てコーヒーの味を判断するヒントについて書いてみたい。


さて皆さんは「コーヒーノキ」にどのくらいの品種があるかご存知だろうか。お店で売っている豆があれだけの種類あるのだから、相当あるだろうと思われるだろうか。
実は三種類しかない。

アラビカ種、カネフォーラ種、リベリカ種の三種類だ。

しかもこのうち飲用に供されているのはほぼアラビカ種しかない。
一部、カネフォーラ種の亜種「ロブスタ種」がエスプレッソ用や工業コーヒー(インスタントなど)に使用されている。

このアラビカ種はエチオピアのアビシニア高原にしか自生していなかったもので、古くから現地人によって様々な用途に使われていた。
イスラム教で霊力のある(眠くならないから徹夜でお祈りできる)飲料として使われるようになって秘薬とされたが、あまりにも美味いので自然と広まっていった。

キリスト教ではもちろん敵性の飲料ということで禁止されていたが、ローマ教皇クレメンス8世が、これまたあまりにも美味いのでコーヒーに「洗礼」を与え、教徒の飲用を許したことで世界中に広まって現在に至る。

この広まり方に面白すぎるドラマが沢山あるのだが、「おいしいコーヒーのいれ方」とは直接の関係がないので今回は(とても)残念だが割愛させていただく。


こうして広がったアラビカ種だが栽培は難しく、北緯25度から南緯25度までの標高1500m以上の高地でなければうまく栽培できない。
逆にいえばこの条件を満たすほとんどの国で現在は栽培されている。

そして世界各地に産地を広げたコーヒーは、その土地の「土」と近接する他の植物の植生に影響を受けて、各地でその形質を変化させていった。
現在確認されているだけで20種類以上の亜種があるし、耐病性や収穫性の高い人工的に作られた亜種もある。

事実上品種はアラビカ一種しかなので、この亜種のことを便宜上コーヒーの世界では「品種」と呼んでいるわけだが、通常品種の違いで味に大きな違いは生まれない。エチオピアのティピカ種を東ティモールで育てても同じ味にはならないのだ。むしろ育った土で味は決まる。エチオピアのコーヒーとブラジルのコーヒーは明らかに味が違う。土で決まるのだから重要なのは「国境」ではない。大まかにコーヒーの味を決める「エリア」を解説していこう。

まずはコーヒーの故郷「アフリカ」について。
原産国エチオピアのコーヒーは、大英帝国がアラブを支配していた頃、東インド会社の主要商材であったが、その際出荷に使われたイエメンの「モカ港」の名をとって長らく「モカ」と呼ばれてきた。当然、イエメン産のコーヒーも同様にモカと呼ばれる。現在は、各地で品質の高いコーヒーを作る努力が実り、「村」単位まで特定して豆を買えるようになったので大くくりな「モカ」という言い方は廃れて、エチオピア・イルガチェフェというような名前で売られている。逆にこういう名前でコーヒーを売っている店は高品質なコーヒーを扱っているという証左になる。
最近ニュースでコーヒーの価格が高騰している、という話をよく聞かれたと思うが、これはニューヨーク相場市場で先物として取引されているコーヒー豆の話で、行き先を失った投機マネーが安定しているコーヒー市場に流れ込んできたというだけの話である。産地の豆をオークションで落札しながら流通している高品質コーヒーには関係ない話なのだ。お店で「国の名前」だけで売られているコーヒーは単体では高値の付かない豆を市場に持ち込んで流通している商材である可能性が高い。名前付きの豆と国名の豆では我々のようなロースターに入ってくる生豆(はい、なままめですね)の価格で2倍近い開きがあり、欠点豆も多く含まれている。地域名がついていればそれでいいというわけではないだろうが、高品質コーヒーを探すひとつの道標にはなると思う。
エチオピアの「モカ」に並んでOldファンに馴染み深いタンザニアの「キリマンジャロ」だが、この国はシッパーと呼ばれる輸出業者が力を持っていて、地域名で豆を出荷しがちな農協依存の多くの国とは違い、しゃれたブランド名を付けて出荷しているケースが多い。「アデラ」「リヴィングストン」「KIBO」「エーデルワイス」などが有名どころか。
「モカ」も「キリマン」も昔からコーヒーを愛飲された方には「酸っぱいコーヒー」のイメージが強いのではないだろうか。しかしコーヒーが酸っぱいのは焙煎が浅いからなのであって、豆が固有に持っている味ではない。ヨーロッパではこれらのコーヒーを他の産地のものよりも深く焙煎するのが通常の流儀で、原産地ならではの複雑な味わいを堪能させている。日本でこれらのコーヒーを酸っぱくしていたのは、アメリカでこれをお茶代わりに浅く焙煎して飲んでいた習慣が戦後広まった影響による。アメリカンコーヒーなるものの由来である。この話、はじめると長くなるので関心のある方は過去記事をご参照いただきたい。
深く焙煎されたエチオピア・コーヒーは「花束を抱きしめたような」香りと現地で言われる馥郁とした香りが特徴で、タンザニア・コーヒーは「フルーティな」と一般に形容される柑橘のような少し強めの後味が特徴だ。このように深く焼いても潰れてしまわない複雑な味わいのことを、潰れた香味が「苦味」であることから対置して「酸味」と呼んでいる。このネーミングがコーヒーの味を一般の人に説明しにくくしている元凶なのだ。酸っぱくないのに「酸味」という言葉を使わざるを得ないほど、コーヒーの味に対するボキャブラリーは進化していない、ということだ。だからご期待いただいてこの記事を読まれている方には大変申し訳無いのだが、当欄でこれ以上の味についての解説はできない。皆さんが自分好みのコーヒーを発見するために各国、各店のコーヒーの味を確かめていく「海図」の役割を当記事は指向している。だから特定のコーヒーをオススメしたりもしない。ぜひ皆さんの感性で各国のコーヒーを味わってみて欲しい。
さて、「アフリカ」のコーヒーを駆け足でご紹介していこう。
赤道直下のケニアのコーヒーもタンザニアと同系統の味だが、はっきりとした味で香りも豊か。わかりやすいコーヒーの代表格と言えるだろう。
そして最近注目を集めているのが、タンザニアの小さな隣国「マラウイ」にしか産出しない「ゲイシャ」という亜種。エチオピアのような花束フレーバーがとても上品で、バランスの良い品種。産出量が少なく今まで注目されなかったが、キューバや、かつて「コロンビア・マイルド」と称され高品質コーヒーの代名詞とも言われながら不安定な政治に翻弄されて苦戦しているコロンビアコーヒーの救世主として期待されて移植され、近年販売量も増えて、かつ結構な高値で取引されている。

今日は、アフリカだけで終えてしまったが、基本的な豆を見分ける構図については盛り込んだつもりなので、次回はその他の地域について解説を試みたい。
しかし、この記事、回を追うごとに長くなっていくが読んでいただけているのだろうか。ちょっと心配だが、せっかくなので必要なことは端折らずに書いていきたい。お付き合いいただければ嬉しいです。


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