2013年5月9日木曜日

せっかくだからストレートコーヒー、の真意

カフェジリオの珈琲は、ブレンド2種、ストレート9種をご用意しています。
ですからお客様は、はじめてメニューから珈琲を選ぶ時、少なからず迷われます。
珈琲の味は実に言語化が難しく、苦いか酸っぱいかの二元論だけで語られがちです。しかし、珈琲は苦味、酸味の要素に絞ってしまえば、それは焙煎度の深浅だけの要素で、だから本来珈琲は苦くても酸っぱくても失敗なのです。
では、その先の珈琲豆の持つ本来の香味は、どのような言葉で表現すればいいのかと言われると、これが甚だ頼りない。


例えば、エチオピアは「花の香」と言ったりします。隣国マラウイには良質の珈琲を形容する言葉に「花束を抱えたような」という粋な慣用句が存在します。
キリマンジャロの名で知られるタンザニアは「柑橘の酸」と評されます。確かにそのような鋭い酸味が持ち味の珈琲です。
しかし、これらの「業界用語」で皆さんに珈琲の味は伝わっているかについて、僕は懐疑的です。
しかも歴史の浅い(とはいえ結構古いですが)コロンビアやブラジル、グァテマラなんかはどういう言葉で表現すればいいのかがまだ定まっていなくて、コクとかキレとかビールみたいな言葉で表現されている。
ワインみたいな言語的洗練を得るまでにはまだ遠い道のりが残されているようです。

そんな訳で、どう説明されてもお客様には完全にはその味がイメージできないから、「オススメは?」と聞かれます。
私は間髪をおかず「ジリオブレンド」です。とお答えしています。
それがこの店のコーヒーのコンセプトを体現している、いわば珈琲屋としての私の名刺だからです。
すると大半のお客様は、「うーん、せっかくだからストレートを飲みたいのです。ストレートのオススメは?」と重ねて問われます。

自分で聞いた「オススメ」を退けて重ねて問うほどの「せっかくだから」の真意はどこにあるのでしょうか。
「せっかくここに来たのだから、ここにしかない珈琲を飲みたい」わけではないですね。ここにしかない珈琲こそが、お店のブレンドなのですから。

だとすると、
「せっかく喫茶店に来たのだから、できるだけ美味しい珈琲を飲みたい。」
という気持ちに対して、
「ブレンドコーヒーよりもストレートコーヒーの方が美味しいはずだから」ストレートの方からオススメを言って欲しい、のでしょう。

もしかしたら、美味しくないブレンドを出すお店が多いのかもしれない。
品質の悪い安価な豆を混ぜて、原価を削減しているお店があるのかもしれない。

私がブレンドコーヒーをオススしていることに対して、「何かお店に都合の良いものを押し付けられて、自分の方は損するのではないか」という疑いもあるのかもしれない。

まさに自業自得。
喫茶店という業界が、不実を重ねてきた報いを今、受けているというわけですね。
そして、まさにこの一点が、スターバックスの日本進出以降、すごい勢いで喫茶店が減っていった要因なのでしょう。

逆に言えば、今生き残っている喫茶店は、付加価値のみで生き残ったお店を別にすれば、どこに行ってもブレンドがストレートに劣る店はないはずです。

大切なことなので、改めて申し上げておきますが、ブレンドコーヒーというのは、お店の考える理想的なコーヒーの味の体現なのです。

私共の話をすれば、ともすれば単体ではすこし癖の強さを感じるエチオピアの花の酸味とタンザニアの柑橘の酸味を、ブレンドすることで立体的に味わい、両者に共通して欠けているボディ感をアジア系の豆で補う。これがジリオブレンドのコンセプトで、コーヒーの酸味の誤解を解く、という私自身のコーヒー屋としてのビジョンを実現させる尖兵なのです。

幸い常連になってくださったお客様は、多くのストレートコーヒーをお試しいただいて、結果的にジリオブレンドのリピートユーザーになっていただいている方が多いです。

またそういう方は、時折違う味のコーヒーを楽しむためにストレートコーヒーを飲まれます。これは一歩進んだコーヒーの楽しみ方と言えます。
そういう方にこそ、同じアラビカ種の豆なのに産出国によって(つまり育つ土の風味で)まったく味が違うコーヒーの香味を積極的に楽しんでいただきたいと私も思っていますので、そのお手伝いは喜んでさせていただきたいのです。


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