2015年11月25日水曜日

だれとも向き合わないカウンターの風景

この店をつくる時、関わったいろんな業者さんが口々に、「回転率」を考慮した客席レイアウトについてアドバイスをしてくれた。
僕は売り上げを上げるのは「回転率」ではなく「味」だと思っていたし、効率重視の狭苦しく区切られた店内で食べるものは、同じものでもおいしく感じられないのではないかと思っていたので耳をかさなかった。

特に彼らが目の敵にしたのはコーヒーを淹れるスペースに対置された広々としたカウンターだった。
「こんないい場所にカウンターを置いてはいけない」
「カウンターは窓際に外を向いて並べるのが一番効率がいいんです」


しかし銀座のbarに入り浸っていた僕にとってカウンターというのは神聖なもので、話しかけられるようになるまで、何回か通い、目を合わせて微笑んでくれるようになったらおずおずと話題を選んでマスターと話をし、明らかに自分には過ぎた場所だったと気付かされたり、意気投合して長い間通うことになる店を見つけたりした。
それにコーヒーを淹れる方法が一つのプレゼンテーションと考えていたのだから、もちろんそのアドバイスを採用するわけにはいかなかった。

確かに高回転率を目指す業種では確かに窓向きのカウンターテーブルが機能しているのはよく街で見かける。
そうして今や、人ではなく外と向き合うカウンターテーブルは、主に「お一人様」的カフェ利用者にとって一般的なものとなった。
トラディショナルな喫茶店が少なくなっていく中、カウンターを神聖視するような古い考え方は失われていくのだろう。
それも効率主義が失わせた風景のひとつだ。